AIOps 2025 - AI駆動のIT運用自動化

2026.01.12

AIOpsとは何か

AIOps(Artificial Intelligence for IT Operations)は、機械学習とビッグデータ分析を活用してIT運用を自動化・最適化するアプローチです。Gartnerが2017年に提唱したこの概念は、2025年現在、企業のIT運用における標準的な手法として定着しています。

従来のIT運用では、監視ツールが生成する膨大なアラートを人間が確認し、問題の原因を特定して対処していました。しかし、マイクロサービスアーキテクチャの普及やクラウドネイティブ環境の複雑化により、この手動アプローチは限界を迎えています。平均的な企業では、1日に数万から数十万件のアラートが発生し、運用チームは「アラート疲れ」に陥っています。

AIOpsは、この課題を解決するために以下の価値を提供します。

ノイズ削減: 機械学習アルゴリズムにより、関連するアラートをグループ化し、重複を排除します。典型的な導入事例では、アラート数を90%以上削減できることが報告されています。

異常の早期検知: 過去のパターンを学習し、通常とは異なる振る舞いを検出します。これにより、問題がユーザーに影響を与える前に対処できます。

根本原因の特定: 複雑な依存関係を分析し、問題の真の原因を迅速に特定します。平均復旧時間(MTTR)を大幅に短縮できます。

自動修復: 既知の問題に対して、自動的に修復アクションを実行します。人間の介入なしに問題を解決することで、24時間365日の安定運用を実現します。

AIOpsの主要機能

異常検知(Anomaly Detection)

異常検知は、AIOpsの最も基本的かつ重要な機能です。従来の静的な閾値ベースの監視とは異なり、AIOpsは動的なベースラインを学習し、そこからの逸脱を検出します。

時系列異常検知: CPUやメモリ使用率、レスポンスタイム、エラー率などの時系列メトリクスに対して、季節性や傾向を考慮した異常検知を行います。例えば、毎週月曜日の朝にトラフィックが増加するパターンを学習し、その増加自体はアラートとしない一方で、予想外の急激な変化は検出します。

正常パターン: 月曜9時 CPU使用率 70% -> 学習済みのため正常
異常パターン: 火曜14時 CPU使用率 70% -> 通常は30%のため異常として検知

多変量異常検知: 複数のメトリクス間の相関関係を分析し、単一のメトリクスでは検出できない異常を発見します。例えば、リクエスト数が増加しているのにレスポンスタイムが改善している場合、キャッシュヒット率の異常な上昇を示唆している可能性があります。

ログ異常検知: 構造化・非構造化ログから異常なパターンを検出します。新しいエラーメッセージの出現、既知のエラーの頻度増加、ログ出力パターンの変化などを自動的に検知します。

根本原因分析(Root Cause Analysis: RCA)

問題が検出された後、その原因を特定することは、解決への第一歩です。AIOpsは、複雑なシステム間の依存関係を理解し、問題の根本原因を自動的に特定します。

トポロジーベースの分析: サービス間の依存関係グラフを構築し、障害の伝播経路を追跡します。例えば、フロントエンドサービスのエラー率上昇が、実際にはバックエンドデータベースの接続プール枯渇に起因していることを特定できます。

相関分析: 時間的に近接して発生したイベント間の相関を分析し、因果関係を推定します。デプロイメント、設定変更、インフラストラクチャイベントと障害の関連を自動的に検出します。

変更影響分析: 直近の変更(コードデプロイ、設定変更、インフラ変更)と問題発生の関連を分析します。「この問題は30分前のデプロイ後に発生し始めた」といった洞察を提供します。

自動修復(Auto-Remediation)

AIOpsの究極の目標は、問題を検出するだけでなく、自動的に修復することです。これにより、人間の介入なしに24時間365日の安定運用が可能になります。

ランブック自動化: 既知の問題に対する対処手順(ランブック)を自動的に実行します。例えば、ディスク使用率が90%を超えた場合に、古いログファイルを自動的に削除するといった処理です。

# 自動修復ルールの例
trigger:
  condition: disk_usage > 90%
  service: web-server
actions:
  - name: cleanup_old_logs
    command: find /var/log -mtime +7 -delete
  - name: notify_team
    channel: "#ops-alerts"
    message: "Disk cleanup executed on {{ host }}"

スケーリング自動化: 負荷の増加を検知し、自動的にリソースをスケールアウトします。Kubernetesの Horizontal Pod Autoscaler(HPA)と連携し、予測的なスケーリングを実現します。

セルフヒーリング: 障害が発生したコンポーネントを自動的に再起動または置き換えます。Kubernetes環境では、Pod の異常を検知して自動的に再スケジュールします。

主要ベンダーのAI機能比較

2025年現在、主要な監視・オブザーバビリティベンダーは、それぞれ独自のAI機能を提供しています。

Datadog

Datadogは「Watchdog」というAI機能を中心に、包括的なAIOps機能を提供しています。

Watchdog: 機械学習を活用した自動異常検知エンジンです。メトリクス、トレース、ログを横断的に分析し、異常を自動検出します。検出された異常は、関連するコンテキスト情報とともにWatchdog Alertsとして通知されます。

Watchdog RCA: 異常の根本原因を自動的に分析します。サービス間の依存関係を理解し、問題の発生源を特定します。デプロイメントやインフラ変更との相関も自動的に分析されます。

Bits AI: 2024年に発表された生成AI機能です。自然言語でクエリを入力し、ダッシュボードの作成やアラート設定を行えます。また、インシデント発生時には、関連情報のサマリーと推奨アクションを自動生成します。

ユーザー: "過去1時間でエラー率が最も高いサービスは?"
Bits AI: "payment-serviceのエラー率が12.3%で最も高くなっています。
         主なエラーは'Connection timeout to database'で、
         45分前のデプロイ後に発生し始めました。"

Dynatrace

Dynatraceは「Davis」というAIエンジンを中核に、高度なAIOps機能を提供しています。

Davis AI: 因果関係分析に特化したAIエンジンです。Smartscapeと呼ばれるリアルタイムのトポロジーマップを活用し、問題の根本原因を自動的に特定します。従来のルールベースのアプローチとは異なり、依存関係を自動的に発見し、障害の伝播経路を追跡します。

Davis CoPilot: 生成AIを活用した対話型アシスタントです。自然言語で質問し、システムの状態を理解できます。また、ワークフローの自動生成やダッシュボードのカスタマイズも可能です。

AutomationEngine: 検出された問題に対する自動修復を実行します。Dynatraceのワークフロー機能と統合され、条件に基づいた自動アクションを定義できます。

New Relic

New Relicは「Applied Intelligence」として、複数のAI機能を提供しています。

Incident Intelligence: 関連するアラートを自動的にグループ化し、インシデントとして管理します。ノイズを削減し、本当に重要な問題に集中できます。

Proactive Detection: 異常を自動検出し、問題が顕在化する前に通知します。アプリケーションの健全性スコアを継続的に計算し、悪化傾向を早期に検知します。

Root Cause Analysis: 分散トレーシングデータを活用し、エラーの発生源を特定します。サービス間の依存関係を可視化し、問題の影響範囲を明確にします。

New Relic AI: GPT-4ベースの対話型アシスタントです。NRQLクエリの生成、アラート設定の支援、インシデント分析のサポートを行います。

ベンダー比較表

機能DatadogDynatraceNew Relic
異常検知WatchdogDavis AIProactive Detection
根本原因分析Watchdog RCADavis (因果分析)Root Cause Analysis
LLMアシスタントBits AIDavis CoPilotNew Relic AI
自動修復Workflow AutomationAutomationEngineWorkflows
強み統合性・使いやすさ因果分析の精度コスト効率

LLM統合とChatOps

2025年のAIOpsにおける最大のトレンドは、大規模言語モデル(LLM)の統合です。従来のAIOpsが統計的機械学習に依存していたのに対し、LLMは自然言語による対話と高度な推論能力を提供します。

ChatOpsの進化

SlackやMicrosoft Teamsと統合されたChatOpsは、LLMによって大きく進化しています。

自然言語クエリ: 「本番環境のAPIレスポンスタイムは?」のような自然言語の質問に対して、適切なクエリを自動生成し、結果を人間が理解しやすい形式で返答します。

エンジニア: "@ops-bot 昨日のデプロイ後にエラーが増えてない?"
Ops Bot: "はい、昨日18:00のデプロイ後にエラー率が0.1%から0.8%に増加しています。
         主なエラーは'NullPointerException'で、UserServiceの
         getUserProfile()メソッドで発生しています。
         関連するコミット: abc123 by @developer"

インシデント対応支援: インシデント発生時に、過去の類似インシデントを検索し、解決策を提案します。また、対応手順のチェックリストを自動生成し、進捗を追跡します。

ポストモーテム自動生成: インシデント解決後、タイムライン、影響範囲、根本原因、改善アクションをまとめたポストモーテムドキュメントを自動生成します。

プライベートLLMの活用

セキュリティやコンプライアンスの観点から、多くの企業がプライベートLLMの導入を進めています。Azure OpenAI ServiceやAmazon Bedrockを活用し、社内データを外部に送信することなくLLM機能を利用できます。

また、オープンソースのLLM(Llama、Mistralなど)をオンプレミスで運用するケースも増えています。これにより、完全なデータ主権を維持しながら、LLMの恩恵を受けることができます。

導入パターン

AIOpsの導入は、段階的なアプローチが推奨されます。

Phase 1: データ統合(1-3ヶ月)

最初のフェーズでは、分散したデータソースを統合し、AIOpsの基盤を構築します。

  • メトリクス、ログ、トレースの収集と一元化
  • サービス間の依存関係マッピング
  • 既存アラートの棚卸しと整理
  • ベースラインデータの蓄積

Phase 2: 異常検知の導入(3-6ヶ月)

データ基盤が整ったら、異常検知機能を導入します。

  • 静的閾値から動的ベースラインへの移行
  • ノイズ削減のためのアラートグループ化
  • 優先度付けルールの設定
  • 運用チームへのトレーニング

Phase 3: 根本原因分析の活用(6-9ヶ月)

異常検知が安定したら、根本原因分析機能を活用します。

  • トポロジーマップの精緻化
  • 変更管理システムとの統合
  • 相関ルールのカスタマイズ
  • RCA精度の継続的改善

Phase 4: 自動修復の実装(9-12ヶ月)

最終フェーズでは、自動修復を段階的に実装します。

  • 低リスクな自動修復から開始(ログクリーンアップなど)
  • 承認フロー付きの半自動修復
  • 高リスクアクションの自動化(慎重に)
  • 継続的な改善とガバナンス

成功のための重要な要素

経営層のサポート: AIOpsの導入には、ツール投資だけでなく、プロセスと組織の変革が必要です。経営層の理解とサポートが不可欠です。

段階的なアプローチ: すべてを一度に自動化しようとせず、小さな成功を積み重ねることが重要です。

人間の監視: 自動化を進めても、人間による監視と介入の仕組みを維持することが重要です。AIは万能ではなく、予期しない状況では人間の判断が必要です。

継続的な学習: AIOpsシステムは、フィードバックを受けて継続的に学習・改善されるべきです。誤検知や見逃しをフィードバックし、精度を向上させます。

2025年の動向

予測的運用(Predictive Operations)

2025年のAIOpsは、問題が発生してから対処する「リアクティブ」なアプローチから、問題を予測して事前に対処する「プロアクティブ」なアプローチへと進化しています。

キャパシティ予測: 過去のトレンドと季節性を分析し、将来のリソース需要を予測します。「3ヶ月後にデータベースストレージが枯渇する」といった予測に基づいて、事前に対策を講じることができます。

障害予測: 過去の障害パターンを学習し、障害の兆候を検出します。ハードウェア障害、サービス劣化、セキュリティインシデントなどを予測し、予防措置を推奨します。

FinOpsとの統合

クラウドコストの最適化(FinOps)とAIOpsの統合が進んでいます。

コスト異常検知: クラウド支出の異常な増加を自動検出します。設定ミスやリソースの過剰プロビジョニングを早期に発見できます。

最適化推奨: 使用パターンを分析し、コスト最適化の推奨を行います。「このインスタンスはReserved Instanceに変更することで30%削減できます」といった具体的な提案を自動生成します。

セキュリティオペレーションとの融合

AIOpsとSecOps(セキュリティオペレーション)の境界が曖昧になっています。

統合された異常検知: パフォーマンス異常とセキュリティ異常を統合的に検出します。例えば、通常とは異なるAPIアクセスパターンは、パフォーマンス問題であると同時にセキュリティ脅威の可能性もあります。

脅威インテリジェンスの統合: 外部の脅威インテリジェンスフィードと連携し、既知の攻撃パターンを検出します。

エッジコンピューティング対応

IoTやエッジコンピューティングの普及に伴い、AIOpsもエッジ環境に対応しています。

分散AIOps: エッジデバイス上で軽量な異常検知を実行し、中央のAIOpsプラットフォームと連携します。ネットワーク遅延を最小化しながら、全体的な可視性を維持します。

オフライン対応: ネットワーク接続が不安定な環境でも動作する、オフライン対応のAIOps機能が登場しています。

まとめ

AIOpsは、2025年において企業のIT運用に不可欠な技術となっています。異常検知、根本原因分析、自動修復という基本機能に加え、LLMの統合により、より直感的で高度な運用自動化が可能になっています。

導入にあたっては、段階的なアプローチを取り、小さな成功を積み重ねることが重要です。また、AIに任せきりにするのではなく、人間の監視と判断を維持することで、信頼性の高い運用を実現できます。

今後は、予測的運用、FinOpsとの統合、セキュリティオペレーションとの融合がさらに進み、AIOpsはIT運用のあらゆる側面をカバーする包括的なプラットフォームへと進化していくでしょう。

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